母の入院している加藤内科から、院長から話があるので家族が集まって欲しい、との申し出があった。
午後の便で岡山に向かう。
夕方岡山の自宅に着き、締め切っていた戸を開けていると、これから病室に集まって欲しいとの連絡があった。隣の妹夫婦と病院へ。
このところ毎週のように岡山に帰り母のやつれた顔も見慣れたせいか、先週より健康に見える。肌のツヤも良くなり健常な頃の顔に戻ってきたみたいだ。本当に死ぬのか?
院長の加藤先生が看護師とやってきた。
院長としては、患者本人の母は一切の抗がん治療を拒んでいることはよく分かってはいるが、それと家族の意向が一致しているかどうかを確認するのが皆を集めた趣旨のようだ。
私と妹が、母の願っているやり方を通してやるのは家族全員の一致した意見であることを説明した。
加藤先生は母のことを珍しいくらい頑固な人、と笑って評していたが、もし自分自身が同じ立場になったとしても母と同じ選択をするであろう、とおっしゃっていた。完治するための抗がん剤投与なら服用するものの、治る見込みはゼロで単なる延命のためなら拒否するのは選択の一つというのだ。しかも、抗がん剤で「延命」が可能かどうかもやってみないとわからないそうだ。ひょっとしたら投与の為に死が早まる可能性もあるようだ。とにかくやってみなければ分からないみたいだ。
その日話されたことを箇条書きメモすると
・色々なケースがあるので、余命**ヶ月という宣言は現時点では言えない。しかし、正月を越すのはかなり難しいだろう。
・死に至るまでの病状のプロセスも色々なケースがあるので断言できない。病院としては出来るだけ苦しまないようベストを尽くす。
・今の所一番苦痛なのは、腹にポッコリ溜まった腹水の圧迫感だが、この腹水を抜くのは余程の場合のみ。腹水を抜くと、すぐにまた身体内部の水分、栄養が腹水として溜まり、身体はげっそりしてくるそうだ。また本当の末期ではこの溜まった腹水が唯一の生命源となるようだ。しんどいが腹水と仲良くするしかない。
・食べてはいけないものは無し。欲しければ何でも食べてよし。ワインもどうぞ。(とはいうもののの食欲は全くないようだが)
・本人が希望するならこのままずっと入院していてもよい。(母は病院をたらい回しにされることを恐れていたようだ)
・最期まで自分でトイレに行けるよう筋力を維持して欲しい。
末期は自力でトイレに行けずオムツをする患者も多いようだ。誇り高き母はその事態だけは避けたいようだ。ポッコリ溜まった腹水でしんどく、ついベッドに寝がちになりがちだったようだが、そうすると筋肉は見る間に減ってきて本当に寝たきりになってしまうらしい。これからは積極的に院内を散歩するよう頑張る、と言っていた。
年の頃は60代か?70までは届いていないかもしれない。とても感じの良い先生だった。話し方もとても穏やかで紳士的。この方なら母を任せられる。私の加藤先生に対する印象。
病院を出たのは9時過ぎ。
あまり食欲がなく、近くのコンビニで買ったピザとビール二本飲んで寝た。
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